夢を上手に利用して、毎日の生活を充実させていく。そのような考えにはとてもホリスティックな響きがあり、まさに21世紀のライフスタイル、という感じがします。
しかし日本の戦国時代には、もっとダイレクトに夢を活用するテクニックが知られていました。
それは「夢買い」です。
夢を買うとは、どことなくロマンティックな想像をかき立てる用語ですが、その実態は吉夢を見た人のところに押しかけて、高価な金品でその夢を買い上げるという、まるで札束で横っ面を張るような行為でした。
でもそれほどに、吉夢は実現すると考えられていた、という証でもあるのでしょう。
この夢買いによって大きく人生を好転させたといわれる代表が、鎌倉幕府の初代征夷大将軍、源頼朝の正室となった北条政子です。
伊豆国の豪族北条時政の娘だった政子が、当時は平家の追っ手から逃れる流人でしかなかった頼朝と結婚すると決めたとき、周囲はこぞって猛反対したといいます。
しかし、平安時代の女性としては型破りに、彼女はその反対を押し切ってしまいます。それは、この夢買いで未来に自信を持っていたからだ、という説が根強いのです。
三人姉妹の長女で最も賢く美しかったといわれた、政子。でも彼女だけが先妻の娘だったので、何もしなければ未来は開けない、という不安も抱いていました。
そんなある日、下の妹が、高い峰に登り、左右の袂には月と太陽を入れ、三つの実がついた橘の枝を頭上におくという夢を見た、と話し出したのです。
それを聞きつけた政子は、大吉夢であることを教えるどころか、若いのにそんな大凶夢を見たあなたが可哀想、私が夢を買い取って身代わりになりましょう、と鏡と着物を引き替えに差し出し、妹を説得したのです。
凶夢を買い取るという奇妙な商談を相手に信じ込ませる当たりが、才女たる所以でしょう。
政子は、まんまと妹に夢を詳細に語らせた後、妹が夢を見た寝具にくるまり、じっくりとその夢の内容を唱え続けることで夢を自分のものにします。そして現実を変えていったのです。
ヘイズ 中村
病弱な幼少時代を多くの書籍を友に過ごし、神秘世界へのあこがれを募らせるようになる。中学生頃から本格的に西洋密儀思想の研究を開始、成人してからは複数の欧米魔術団体に参入し、学習と修行の道に入る。メディアを通じて伝わるギャップに嫌気がさし、現在はメディア出演NGながら、魔女・占い師として、様々な魔術書や占い書の翻訳と執筆を主な活動とし、現在も第一線で活躍する日本魔女界の重鎮にして、日本屈指の占術家。
他にも気になる夢を見たときは、夢辞典で検索してみてくださいね。