ずいぶん長い夢を見たと思ったのに、実際には数分しか眠っていなかったりすることがあります。夢の中では時間感覚が違っているのでしょうか。
夢の中の時間と、実際の時間を調べてみたところ、ほぼ一致していたという実験結果があります。人は体の中に、複数の体内時計を持っていて、規則正しく時を刻んでいます。
でも、主観的な時間感覚は、どうでしょうか。起きているときにも、時間を長く感じたり短く感じたりすることがあります。お説教されている時間は果てしなく長く、楽しいデートはあっという間です。
若い頃はあれほど長かった1年が、年を重ねるほどに矢のように速く過ぎ去っていきます。また、命の瀬戸際で、「走馬燈のように」一生の光景が一瞬で再生されることもあります。
フロイトの「夢判断」には、フランス革命の夢を見た男性の例が記されています。男性は、夢の中で捕らえられ、処刑されたその瞬間に目覚めたのですが、そのとき、ベッドの板がちょうどギロチンの刃のように首筋に当たっていたのでした。首に刺激を受けたその一瞬に、ぎゅっと凝縮された長時間分の夢を見たのでしょうか。
この夢で、もうひとつ興味深いのは、首への刺激が、さかのぼって処刑にいたるストーリーを作り出したのだとしたら、現実と夢の中の時間経過が逆になっている点です。
人間の主観的な時間感覚は、思っている以上に、あいまいなものなのかもしれません。
蝶になった夢を見た人が、もしかして自分は蝶で、今、人の夢を見ているのか……と夢と現実をあやぶむのは「荘子」の「胡蝶の夢」です。
夢の中では別の人物として二重に生きているという設定は物語やマンガにもあり、手塚治虫の「火の鳥・太陽編」も、古代の飛鳥時代の青年と、未来の地下都市で生きる少年が、互いの夢の中で入れ替わりながら物語が進んでいきます。
主観的な時間は伸縮自在、まして夢の時間なら。長くもまた短くも思えるこの人生も、もしかして誰かの夢なのでしょうか。
高橋 桐矢
幼少よりファンタジックな空想世界を好み、創作の道を志す。独学でタロット占いと西洋占星術を習得。のちにヘイズ中村氏に師事し、20世紀最大の魔術師クロウリーの魔術を学ぶ。占い師として活動しつつ、小説を書き、2000年、SF小説で小松左京賞努力賞受賞。著書に『占い師入門』『秘密のジオマンシー占い』『イジメ・サバイバル あたしたちの居場所』など。日本児童文学者協会会員。
他にも気になる夢を見たときは、夢辞典で検索してみてくださいね。